最近の診察では、「病棟がこわい。どうしたら、いいんでしょう」と訴えるようになってきた。
最初は、妄想気分とか、妙な妄想が出てきたのではないかと思ったが、そうではない感じ。
精神症状が悪くなってきた時の切迫感のようなものも、あまり感じない。
そういったことを言い始めてから、何回かの診察の話をまとめていくと、なんとなく話が見えてきた。
どうも、その患者さんは、自分の生活自体に不安を感じているようだ。
”このまま、この病院にいるのが、いいのだろうか。病院の外で生活をしないといけないんじゃないか。でも、今の自分は何にもできない。どうしたら、いいんだろうか”
そう、考えているみたい。
ある時病棟にいると、その患者さんとスタッフが廊下で話をしているのが、偶然聞こえてきた。
「私、病院を出たほうがいいの?」
「そんなこと、考えなくてもいい。この病院にいたら、それでいいの」
「本当?」
「変なことを考えずに、ここにいたらいいんだから」
……、あぁ、そりゃこわいだろうな。
スタッフの口調から察すると、患者さんの話を妄想として解釈しているようだ。
だから、余計に通り一遍の口調で対応してしまっている。
閉鎖病棟の中での刺激の少ない漫然とした生活に、不安を覚えている患者さん。
でも、何もできない自分もわかっている。
しかも、自分が何をすればいいのか、よくわからない。
それなのに、「変なことを考えるな」と言われてしまう。
なんて、辛い状況なんだろう。
田舎の民間精神病院に、長期間入院してしまっている慢性期の統合失調症の患者さん。
幻覚や妄想がほとんど無くても、陰性症状や入院治療自体によって、社会生活を送る能力は低下してしまっている。
どんなふうに、生活訓練をさせてあげればいいのか。
家族?
主治医は、この患者さんの家族の顔を一度も見たことがありません。
長期入院している患者さんは、ずっと病棟にいるのが当たり前というのが、過半数のスタッフの認識。
まずは、この考え方から抜け出すことが必要。
でも、固定観念から抜け出すのは、なかなか難しい。なぜか、妄想の強い患者さんの対応のことを思い出してしまう。
最後に、それらの問題を解決するための、上手な方法が思いつかないでいる主治医……
ほんと、患者さんにとっては辛い状況だよね。
申し訳ない。